改造された男
結崎碧里
会社の帰り道、俺は不可解な現象に遭遇した。
次の角を曲がれば自宅の見えるところを、俺の身の丈ほどもある大きさのタコが道を塞いだのだ。
その紫色のタコはその触手を素早く動かし、瞬く間に足を掴み手を掴み、首元に何やら針のようなものを刺した。
「うっ……」
そのまま俺は意識を失った。
目を醒ますと、俺は酸素カプセルのような形状をした謎の機械の中に閉じ込められていた。
「おいっ! 出せよ!」
そう言って透明な壁を叩くがびくともしない。外を見ると、先ほどの紫色のタコが何匹もいる。
――オイ、シズカニシロ
頭にガンガンと響くように聞こえる声はこのタコのものだろうか。
――スコシ、オマエノカラダヲ シラベサセテモラッタ
――ソシテ、オマエノカラダヲ カイゾウシテオイタ
「何だと……?」
そう言われて、自分の身体を見た。俺にいったい何をしたんだ! 必死で全身を調べようと触る。
どこかに異常はないだろうか。
あった。
左腕の二の腕あたりに、スイッチが付いていたのだ。
よく、部屋の照明のオン・オフを切り替えるのに使うようなものだ。
「何だこれは!」
俺はそのスイッチを強引に引き剥がそうとするが、根本がしっかりと皮膚に埋め込まれていているらしく、剥がれそうにない。
――カンタンニハ ハズレナイ
――ソレハ ワレワレト オナジノウリョクヲアタエルモノダ
――ヨロコンデ ツカエ
気が付くと、俺は連れ去られた場所に立っていた。
俺を置いて遠くに飛んでいくUFOを見てようやく、俺は宇宙人に誘拐されて、改造されたのだと事態を飲み込めた。
それにしても、このスイッチにはどんな効果があるのだろうか。それが分からないうちは、不用意にスイッチを押してしまわないように気を付けて生活するしかなさそうだ。
それに、こんな気味の悪いものだ。誰かにバレたら、今まで通りの日常が送れなくなるだろう。なんとか、誰にもスイッチのことを知られないように隠して生きていかなくては。