その代償
矢道通
アギバ国某所。ここである重要な決定がなされた。アギバ国は現在ボルザ国と泥沼の戦争に陥っていた。互いの実力が拮抗し戦線に大きな動きがなかった。
しかし、ボルザ国がそれを打ち破った。ボルザ国では一人の部隊長一人を行動できなくする代わりに自軍の戦力を底上げする、という技術を開発することによってアギバ国を追い詰めていった。このままではアギバ国の敗戦は必至。
そこでアギバ国ではその打開策としてある提案がなされた。それは特殊能力の発現に耐えうる人員の開発。彼らは人外の能力により、敵のみならず味方からも恐れられていた。
―アギバ国拠点A―
アギバ国軍に迫り来るボルザ国軍。その数、およそ六〇〇。(縦書きになると思うので漢数字で。以降数字の赤色はすべて同じ)それに対しこちらは二〇〇。数の不利はもちろん、兵士一人ひとりの能力差もあってかなり追い込まれているどころか撤退もままならない。しかしここで引くわけにはいかない。あと少しで到着する援軍のためにもここは後に引けない。彼らは来る援軍を信じ、全身全霊の力を以って戦線を保つ。だが、戦力差は如何ともしがたく押されている。どんどん数が減るアギバ国軍。そこへ彼らが待ち望んでいたエネルギー砲の雨が降り注ぐ。
「援軍、到着しました。これより、攻撃を開始します」
颯爽と現れた一人の女性。彼女の持つ銃は的確に敵軍の急所に狙いを定め撃ち抜く。次の弾を装填する時間が無駄だと感じると両手に持つ銃を空へ放り、腰のホルスターにぶら下がる銃を抜き発射。二丁拳銃など生ぬるい、四丁で敵を黙らせる。すぐに形勢逆転し、向い来る敵を蹴散らし、大方片付くと敵部隊中核に切り込む。目標は部隊長。辺りの敵がいなくなるとその所在が確認できた。一気に戦地を駆け、部隊長の前へ到達、銃口を額に当てる。憎しみを込めた顔を向けられるが、彼女は微笑みをもらし引き金を引く。部隊長を始末すれば敵部隊全体にかかる能力強化が解けるのでこれが勝利。
アギバ国軍は声を上げ手を挙げ勝利を喜ぶ。
「本当に助かりました。ありがとうございます、ミーシャさん。もうすこしで全滅してしまうところでした」
アギバ国軍部隊長は援軍に感謝を伝える。
「問題、ありません。殲滅戦は私の、得意分野。我が国が勝てるなら、それでいい」
都会の若者のような服を身につけ、あっという間に一個大隊を単独で全滅させておいても何もなかったかのように振る舞う。彼女の能力は「エネルギー砲」。特別に造られた拳銃から魔力をエネルギー砲として射出する。この能力自体は特段珍しいものではない。その中でのミーシャの強みはやはり敵に対する反応速度と貫通力を持つ彼女特有の能力だろう。
「でもミーシャさん、なぜ拳銃を使っているのですか? 機関銃の方が早いでしょうに……」
彼女は拳銃を使うことをポリシーとしている。それ以外を使っている場面は誰も見ない。
「機関銃だと、動きがない。戦ってる感じが、ない。それは、楽しくない」